十二指腸乳頭部がんは胆管がん、膵がんなどと比べて比較的予後、切除率が良い疾患とされています。また、がんの前段階である腺腫の場合は内視鏡的に切除も可能です。十二指腸乳頭部がんは上部消化管内視鏡検査（胃カメラ）の普及により無症状で発見される機会が増加していますが、ときに乳頭の内部にがんが隠れていることもあり、一般的な内視鏡での検査では診断が困難なこともしばしばあります。

　まず、胃の中に入った食べ物などは、胃内で消化されたのちに十二指腸へ運ばれます。十二指腸は全長25cmほどの「C」の字の形をした臓器であり、胃からの食べ物を感知すると様々なホルモンを分泌して、食べ物の消化に必要な膵液や胆汁の分泌を促します。十二指腸乳頭とはこれらの消化酵素の通り道である膵管や胆管の出口であり、十二指腸の内側からみると小さな隆起となっています。普段は閉じていますが、食事がはいってくると乳頭部が開き胆汁や膵液などの消化酵素がこの出口を通り十二指腸に流れ出します。

　この十二指腸乳頭にできるがんが十二指腸乳頭部がんで、全消化管がんの0.2%と比較的珍しいがんです。十二指腸乳頭部がんには大きく分けて2つのタイプがあり、表面に腫瘍成分が見える露出腫瘤型と腫瘍成分が内部に隠れている非露出腫瘤型に分けられます。露出腫瘤型の場合はがんの特徴が表面に現れるため比較的見つけやすいのですが、非露出腫瘤型の場合は表面構造がそこまで変わりないため見つけることが困難とされています。

　症状としては胆管がんと似ており、黄疸、掻痒感、褐色尿、体重減少、腹痛、胆道感染による発熱などを認めます。見た目で気づきやすい症状としては黄疸があげられ、がんがある程度大きくなると胆管の出口を塞ぎ、胆汁の流れが悪くなり黄疸が出現します。また採血検査で肝機能障害を認めて発見されるケースや内視鏡検査が普及した現在では胃カメラを行った際にたまたま見つかったというケースも見られます。

　診断を行うためには超音波検査、CT検査、MRI検査、内視鏡検査などを行います。画像検査では胆汁の流れ道である胆管や膵管の流れ道である膵管が拡張し、周囲のリンパ節が腫大することがあります。また、内視鏡検査の肉眼所見としては乳頭の腫大、開口部隆起の発赤、凹凸不整、びらん、潰瘍形成、結節状・顆粒状変化、易出血性などがあり、鑑別疾患としては腺腫、乳頭炎、カルチノイド、悪性リンパ腫、胆管結石の乳頭部嵌頓、Choledochoceleなどがあげられます。十二指腸乳頭部がんの確定診断に生検は必須ですが、生検を施行してもがんが検出されないことも多く（正診率：62〜85%）、さらに非露出腫瘤型では検出率が低いとされています。そのような場合には乳頭の一部を電気メスで切開し、内側から組織の検査を行うEST下生検（下図）を行うと診断率が上がるという報告も散見されます。

　治療は黄疸に対する減黄術とがんに対する切除術・薬物療法に分かれます。

　減黄術は内視鏡を使用した処置を行い閉塞している胆汁の通り道にステントという筒を留置します。このステントを留置することでたまっていた胆汁が排泄され黄疸が改善します。ステントは大きく分けて2種類あり、胆汁を十二指腸内に流す短いステントを留置するEBS（内視鏡的胆管ステント留置術）という処置と、長いチューブを使い先端を鼻から出して胆汁を体外に流すENBD（内視鏡的経鼻胆管ドレナージ）という処置があります。ただ胆汁を流す場合はEBSが選択されますが、胆汁を検査に提出したい場合や、胆汁の性状をモニタリングしたい場合はENBDが選択されます。

　治療は手術が第一選択となり、術式は膵頭十二指腸切除術となります。全身麻酔下で行われおなかを切開し十二指腸と膵頭部、胆管、胆のうを切除する手術です。胃から切り離した十二指腸の部分は下から持ち上げた腸と吻合します。入院期間は病院ごとに違いはありますが、大体2週間から4週間の間で、合併症が起きれば入院期間は伸びます。術後の5年生存率としては約30～65%との報告もあり、膵頭部領域のがんとして予後は良好な方です。

 また、がんの前段階である腺腫の場合は内視鏡治療（内視鏡的乳頭切除術）で切除することが可能です。内視鏡での切除なので全身麻酔やおなかを切開することもなく、30分程度で終わります。遠隔転移があって切除できない場合は化学療法となります。

　十二指腸乳頭部がんは稀な疾患だからこそしっかり疑って調べないとなかなか見つからない病気です。早期で発見できれば内視鏡的に切除も可能なため、少しでも検査で異常がでていればちゃんと精密検査を受けましょう。